20世紀初頭に誕生した量子論(量子力学)は、相対性理論と並ぶ現代物理学の2大理論のひとつです。現代におけるさまざまなテクノロジーの発展には、量子論の考えが大きく貢献しています。

量子とは、世の中に存在する最小単位のことで、原子がいちばん小さいと考えられていた時代には「原子=量子」と考えられていました。

量子という言葉には、普段あまり馴染みがないと思いますが、電子機器などの「電子」も量子ですし、目に見えない小さな光の粒である「光子」や、数年前に話題となった「ニュートリノ」も量子の種類と言えます。量子の世界は、原子や分子といったナノ(1mの10億分の1)レベルの小さな世界です。

量子論の大まかな歴史は、1900年にドイツの物理学者マックス・プランクがエネルギー量子の考え(量子仮説)を提唱し、次いでドイツ生まれの物理学者アルバート・アインシュタインが光量子(光子)を、デンマークの理論物理学者ニールス・ボーアが角運動量の量子を示したと言われています。また、1926年、オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが「波動関数」を導入した「シュレーディンガー方程式」により、物理学者たちは原子や分子などのふるまいを詳しく知ることができるようになりました。

量子は粒であると同時に波にもなる

量子論は「物の存在」について、それまでの常識を根底からくつがえす事象を発見しました。通常、物質はある時間には同じ場所にしか存在せず、物質を切り刻んでいくと、最終的に「粒」になる。ところが、量子は粒であると同時に「波」にもなる不思議な性質を持っている…。そのような「波と粒子の二面性」を決定づけたのが、有名な「二重スリットの実験」です。

この実験では、電子を1つずつ発射する「電子銃」を、2つの縦長のスリットが入った板に向けて発射します。スリットを通り抜けた電子がその先に置かれたスクリーン(写真フィルムなど)にぶつかると、その跡が記録されるというものです。

電子を粒と考えた場合、電子は直進し、スリットを通り抜けた電子はスクリーンに点状の跡を残すと考えられます。何度も発射していくと、スリットの形の通り、2つの縦長の線のような跡が記録されるはずです。
しかし実際には、何度も発射していくと、スクリーンには縞模様(干渉縞)が現れ始めました。電子を単純な粒子と考えていては、このような実験結果を説明できず、電子は粒から周波の「波」にカタチを変えたことがわかりました。

光子による実験でも同様の結果が得られたことから、量子は粒にも波にもなる性質を持っていることが決定づけられたのです。

このように、電子や光子は粒子のような性質と、波のような性質をあわせ持つのですが、不思議なことに、その両方の性質を同時に観測することができません。例えば電子は、観測していないときは波のように空間に広がっていますが、電子の波に光を当ててその位置を観測しようとすると、瞬時に電子の波が1か所に収縮してしまい、粒のように見えるのです。その1か所は、波が広がっていた範囲のどこかなのですが、どこに出現するかは確率で予言するしかないといいます。

量子論の研究に期待されること

ミクロな世界を極める量子論は、すでに実社会に応用され、今後のさらなる発展にも期待がかかっています。例えば、パソコンなどに不可欠な半導体への貢献のほか、量子論を化学の分野に応用した「量子化学」は、医薬品の開発などにも役立てられています。

また、近年、特に期待を寄せられているのが、量子力学的な性質を用いた「量子コンピュータ」の開発です。計算速度がけた違いに速く、その実力は世界最速のスーパーコンピュータで1万年かかる計算を200秒で行うほど。
大量のデータを素早く処理することができることから、AIのさらなる進化や新薬の開発、物流での効率的な配送ルートの提供のほか、情報化社会において重要な情報セキュリティを守る暗号装置の開発など、さまざまな分野での活躍が期待されています。

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