レビュー
誰しも「科学とはこういうもの」というぼんやりした理解を持っているだろう。観察と計測から法則性を導き出す、厳密さを重んじる、いつでもどこでも成り立つ……。しかしこのような科学に対する「常識」は、高校で習うような物理や化学の範囲を超えた途端に怪しくなる。
「音の速さ」や「水の粘性」といったごく基礎的な物理量すら、いざ測定実習を行うと、教科書に載っている値から大きくズレることも珍しくない。そこで私たちは、現実世界と「科学的」に対峙する厳しさを体験するのだ。
実を言えば要約者は、あまりに不器用で実習の結果が散々だったため、理論の研究だけで卒業できる分野に専攻を切り替えた。そのとき、先端分野になるほど、科学の「正しさ」は実験や観測を行う者の器用さや繊細さに依存しているのかもしれないと思わされた。
実験や観測である程度白黒がつく物理のような分野はまだいいほうで、医学ともなれば「なぜ効くかわかっていないが、経験的に効く」という話はいくらでもある。こうなると科学的正しさが「食べ合わせ」や「厄年」のような経験則に基づく因習とどこが異なるのか、という気持ちにもなってくる。
しょせん科学も人間が行うものであり、一皮むけばこのくらい不安定なものだ。しかし人間はその不安定さのなかから確かなものをつかみ取り、ここまで文明を築き上げてきた。新型コロナウイルスの脅威に世界がさらされ、科学への信頼が揺らぎかけている。こんな状況のなかで、科学と社会はどのように折り合いをつけ、新たな時代に向かえばよいのか。本書はその道筋を示唆してくれる貴重な一冊だ。