「超ひも理論」を簡単に言うと、物質の最小構成単位である素粒子は、大きさを持たない「点」ではなく「ひも」であるという考えです。

多彩な種類がある素粒子も、実はすべて同じひも(1cmよりも33桁も小さい、糸くずのような線状のものや輪ゴムのような環状もの)でできていて、それらのひもは振動し、その振動の仕方の違いを素粒子の種類の違いとして見ることができると考えられています。

「超ひも理論」は、まだ研究途上にある未完成の理論ですが、世の中に存在する物質の最小単位や構成を知ることは、宇宙全体を知ることにもつながると考えられ、注目を集めています。

物質は何からできているか?

古代ギリシャでは、この世に存在する物質はすべて、火・水・土・風の4つの要素(4元素)からできていると考えられていました。

その後、時代とともに研究が進み、すべての物質は「原子」という小さな粒でできており、原子は「原子核」と「電子」からできていることがわかりました。さらに、原子核は「陽子」と「中性子」から成り、陽子と中性子は「アップクォーク」と「ダウンクォーク」からできていることも判明。現在では、アップクォークとダウンクォーク、および電子は、これ以上分割できないものと考えられています。それが物質を構成する最小単位である「素粒子」と呼ばれるものです。
素粒子は、光子(光の素粒子)やヒッグス粒子(質量を生む素粒子)などを含め、現在までに17種類が見つかっています。ただし、未発見の素粒子の存在もうかがわれることから、今後も増える可能性があります。

物理学では伝統的に、素粒子は大きさを持たない点であるとみなされてきました。そして1970年代には、素粒子を点とする前提のもとで「標準理論」と呼ばれる素粒子物理学の基本的な枠組みがほぼ完成しました。しかし、1980年代に入ると、標準理論に限界が見え始めたのです。

素粒子を「ひも」と考えることの意義とは?

1980年代に標準理論がぶつかったのは「重力」の壁です。素粒子は、電子などの「物質を作る素粒子の仲間」と、光子やヒッグス粒子などの「力を伝える素粒子の仲間」に分けられます。自然界には、「電磁気力」「弱い力」「強い力」「重力」の4つの力が存在することが明らかになっていますが、標準理論では「重力」を他の3つの力と合わせて計算することができないのです。ところが、素粒子を「ひも」だと考えると、この限界を突破できる可能性があるとして「超ひも理論」が注目されることになったのです。

実は、1960年代後半には、「超ひも理論」の原型となる「ハドロンのひもモデル」という考え方が登場していました。ノーベル物理学賞受賞者としても知られる南部陽一郎博士が考え出したアイデアです。ハドロンとはいくつかの素粒子が結びついた複合粒子のことですが、ハドロンが発見され始めた1960年代当時は、それ以上分割できない素粒子だと考えられていました。そこで南部博士は「さまざまなハドロンの正体は1種類のひもである」という理論を提唱したのです。ところが、ハドロンを構成するのは複数の素粒子であるとする理論が登場し、「ひも」の研究は一時衰退しました。

しかし、「ひも」の研究が廃れた時期にも、一部の科学者は研究を続けました。1974年には、「素粒子=ひも」と考えれば、「重力」を含む4つの力を同時に取り扱うことができる可能性があることが明らかにされました。さらに1984年には、ジョン・シュワルツとマイケル・グリーンによって、従来のひも理論が抱えていた欠陥を解消する方法が発見され、「重力を取り扱うことのできる素粒子の理論」として「超ひも理論」が脚光を浴びることとなったのです。

なお、従来のひも理論に見られた欠陥は、「超対称性」という考え方を導入することによって解消されました。超ひも理論の「超」とは、この超対称性を意味しています。

「超ひも理論」の世界は10次元!?

「超ひも理論」では、すべての素粒子は「ひも」でできていると考えられ、現存する17種類の素粒子を「同じひもの振動パターンの違い」などによって説明できるとしています。
そして、ひもの振動状態と現存する素粒子をすべて対応づけようとすると、3次元では次元が足りないとして、科学者たちが導いた結論は、なんと10次元の世界でした(9次元の空間と1次元の時間)。空間の中には、私たちが認識している縦・横・高さの3次元空間のほかに、6次元が隠れているといいます。

「超ひも理論」は今なお研究の途上にあり、素粒子が「ひも」であるという確たる証拠は見つかっていません。しかし、超ひも理論が完成すると、物理学にとって最大の謎ともいえる「宇宙はどう始まったのか」という疑問に対する答えが見いだされる可能性があるといわれています。

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